リスキリングの前にオススメ【数学・物理学】

リスキリングの前にオススメ【数学・物理学】
近年、「リスキリング」や「学び直し」という言葉が広く使われるようになりました。しかし、それが単なる流行語や目先の手段になってしまってはいないでしょうか。IT化、デジタル化、DX、AI─これらはいずれも手段にすぎません。リスキリングもまた、目的があって初めて意味を持つものです。
本来の問いは「何を学ぶか」ではなく「なぜ学ぶか」にあります。大切なのは、学び続ける姿勢を持ち続けることです。
学ばなくなってしまった日本人
日本では、企業の人材教育の水準が国際的に見て低下しています。
- 厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析」によると、OJT以外の人材投資(GDP比)の国際比較で日本は最低水準にあります
- また、パーソル総合研究所による「APAC就業実態・成長意識調査(2019年)」では、『社外学習や自己啓発を行っていない人の割合が46.3%』と、他国と比べて突出して高い結果が出ています
こうした背景から、「学ばない国・日本」と揶揄される現状があります。その原因の一部には、単年度主義や同調圧力、過度な計画主義や規制遵守といった文化的要素も指摘されています。
政府が推進するリスキリングは「雇用の維持」や「成長分野への人材移動」を目的としており、それ自体は社会全体にとって重要な政策です。しかし、個人にとっては、それだけを目的にした学び直しではモチベーションが持続せず、息詰まってしまうことも少なくありません。
特にAIの進化速度が著しい現代では、「とりあえずのリスキリング」では到底対応できないのが現実です。だからこそ、本質的で末永く役立つ学びに目を向ける必要があります。
何を学び直すべきか?
たとえば、『Study of Mathematically Precocious Youth(SMPY)』という米国の長期追跡調査があります。これは1970年代から始まった研究で、13歳以前に数学SATで高得点を取った子どもたちを50年以上にわたって追跡したものです。
この研究では、早期の高い数学能力と、その後の博士号取得、STEM分野での論文発表、特許登録、高収入、および企業幹部や専門職への進出との間に強い相関関係があることが示されました。
ただし、これは相関関係であり、数学の勉強さえすれば必ず成功するという単純な因果関係ではないことに注意が必要です。それでも、論理的思考力や問題解決能力といった数学的素養が、現代社会において重要な役割を果たしていることは確かです。
つまり、大人になってからでも、数的思考力を身につけることは大きなメリットがあると考えられます。
14歳からの数学
リスキリングを考えているけれど、資格取得は敷居が高い。家計管理が苦手で数字を見ると頭が痛くなる。そんな「数字アレルギー」を抱えた大人は少なくありません。
近年、日本では数学や物理学を苦手とする人が増えているという状況があります。しかし、デジタル化が進む現代社会において、論理的思考や数的センスは以前にも増して重要になっています。
そんな中で出会ったのが、佐治晴夫氏の『14歳からの数学―佐治博士と数のふしぎの1週間』です。この本は、数学への恐怖心を抱く大人にとって、優しい「お試し」体験を提供してくれる一冊だと感じました。
著者の佐治晴夫氏は、量子論に基づく宇宙創生に関わる「ゆらぎ」の理論研究の第一人者であると同時に、日本文藝家協会会員でもある、稀有な存在です。
本書の最大の魅力は、数学を「計算技術」としてではなく、「世界を理解するための美しい言語」として紹介している点にあります。
- 宇宙の神秘と数学の関係
- 音楽と数学の深いつながり
- 日常に隠れた数学的パターン
これらを詩的で哲学的な表現で語りかけてくれるため、「数学=無味乾燥な計算」という固定観念から解放されます。1週間という構成で、まるで博士と対話しているような親しみやすさで進んでいきます。
正直に言いますと、数学に慣れ親しんだみなさんにとっては「入門的」という印象かもしれません。数学大好きな私にとっても、「基本基礎」と感じる部分がたくさんありました。そして、それこそがこの本の位置づけを明確にしてくれます。
【この本で得られるもの】
- 数学への興味・関心の芽生え
- 数学的思考の楽しさの体験
- 学習への心理的ハードルの軽減
【この本では得られないもの】
- 具体的な計算能力の向上
- 家計管理に直結するスキル
- 資格試験対策になる知識
つまり、本格的な数学学習の「前段階」として、数学という世界への扉を優しく開いてくれる本なのです。
14歳のための物理学
もし『14歳からの数学』を読んで佐治博士の語り口に魅力を感じたなら、ぜひ次の一冊として『14歳のための物理学』も手に取ってみてください。
物理学は、この世界で起こるあらゆる現象を証明し、理解するための学問の一つです。なぜりんごは落ちるのか、なぜ空は青いのか、なぜ音は聞こえるのか。私たちの身の回りで当たり前に起こっている出来事の背後には、美しい物理法則が隠れています。
佐治博士は、この『14歳のための物理学』でも同じように詩的で親しみやすい語り口で、複雑に思える物理現象を日常的な体験と結びつけて解説してくれます。数学が「世界を記述する言語」だとすれば、物理学は「世界の仕組みを解き明かす鍵」と言えるでしょう。
この本を読むことで、多くの人が学生時代に抱いた「数学・物理学への苦手意識」を少しでも和らげることができるはずです。学び直しの第二歩として、世界がどれほど興味深く、論理的に美しく構成されているかを体感してみてください。きっと、身の回りの現象を見る目が変わり、学ぶことへのさらなる意欲が湧いてくることでしょう。
まとめ:リスキリングの前にオススメ【数学・物理学】
リスキリングは、単なるスキル獲得ではなく、「学ぶ力を取り戻すこと」から始まります。『14歳からの数学』は、数学アレルギーを持つ大人が「学び直しの世界」に足を踏み入れるための、優しい案内書です。
即効性のあるスキルアップは期待できませんが、「学ぶことの楽しさ」を思い出させてくれる貴重な体験を提供してくれます。リスキリングを考えているけれど何から始めればいいかわからない方、数字に対する苦手意識を少しでも和らげたい方にとって、この本は良い「お試し」体験になるでしょう。
大切なのは、この本を読んだあと、「次は何を学ぼうか」と自然に思えること―それが本当のリスキリングの始まりです。