疲労回復と睡眠 #5【不眠編】

疲労回復と睡眠 #5【不眠編】
スポーツ競技者にとって、睡眠は疲労回復のために欠かせない重要なリカバリー戦略のひとつである。これまで、多様な視点から睡眠改善の方法を紹介してきた。
【詳しくはこちら】
→疲労回復と睡眠 #1【アイテム編】
→疲労回復と睡眠 #2【環境編】
→疲労回復と睡眠 #3【習慣編】
→疲労回復と睡眠 #4【素朴な疑問編】
しかし、それでもなお「眠れない」「不眠に悩んでいる」という方もいるのではないだろうか。今回は、不眠のタイプや原因を科学的に紐解き、今晩から実践できる具体的な改善策を紹介していく。
- 不眠アイデンティティ
- 不眠のタイプと原因
- 対策方法と具体的な実践方法
不眠アイデンティティ
不眠そのものよりも、「不眠である」という思い込みが問題になるケースがある。睡眠研究の第一人者であるケネス・リックスタイン博士の研究(2017年8月)によると、不眠症患者の37%は、実際には十分な睡眠をとれているにもかかわらず、「自分は不眠だ」と思い込んでいることが示されている。
不眠アイデンティティの特徴
① 睡眠の質への不満
睡眠時間が短くても納得している人は、不満を抱く人より日中の疲労感や不安感が少ない。
② 思い込みが悪循環を生む
「15分以内に眠りに落ちるのが正常」というバイアスが、不安を引き起こし、かえって眠れなくなる。
改善の第一歩
「睡眠には個人差があり、完璧な眠りなどない」という現実的な視点を持つことが大切である。過剰に気にせず、柔軟に構えることで、不眠に伴うストレスを軽減できるようになるだろう。
不眠のタイプと原因
不眠にはいくつかのタイプがあり、それぞれ異なる原因がある。
不眠のタイプ
① 睡眠維持不眠症
・夜中に目が覚めてしまい、再び眠れなくなる
・中途覚醒が15~20分以内であれば問題ないが、20分以上眠れない場合は不安やストレスが原因の可能性がある
② 睡眠導入不眠症
・寝付きが悪く、寝床に入ってから2時間以上かかることがある
・寝床にいる時間を増やすのは逆効果
③ 学習性不眠症
・特定の原因がなくても眠れない
・ベッドで眠れず、別の環境(例:電車など)では眠れる
④ 体内時計の乱れによる不眠症
・不規則な生活リズムが原因で、シフトワーカーに多く見られる
・年齢とともに適応能力が低下している
⑤ 早朝覚醒型の不眠症
・早朝に目覚めて再び眠れない状態
・これを誇りにする人もいるが、実際には不眠症の対策が必要
不眠の原因
① 心理的要因:ストレスや不安
② 身体的要因:ホルモンバランスの乱れ、加齢による適応能力の低下
③ 環境要因:シフトワークや不規則な生活
④ 遺伝的要因:ショートスリーパー体質
対策方法と具体的な実践方法
対策方法
■睡眠時間制限療法
・眠れない時間を削り、短時間でも効率的に眠るための方法
・実際に眠れている時間に合わせて就寝時間を設定する
・昼寝を避け、決めた時間に必ず起床する
・効果を1週間ごとに確認する
■刺激制御療法
・寝室を睡眠専用の空間にして、脳に「ベッド=睡眠」という認識を植え付ける
・20分経っても眠れない場合は、一度ベッドを離れる
・寝室では、スマホやテレビを禁止し、読書や仕事も避ける
■リラクゼーション技法
・瞑想や深呼吸、ボディスキャンで心身をリラックスさせる
具体的な実践方法
- 自分の不眠タイプを理解するため、1週間程度、睡眠記録をつける
- 睡眠記録から、実際に眠れている時間に合わせて就寝時間を調整する
- 刺激制御療法で、寝室を眠る場所として聖域化する
- リラックス技法や、規則正しい生活習慣を取り入れる
例:規則正しい習慣とは…
- 朝の光を浴びる
- 食事時間を一定化させる
- 平日も休日も同じ生活を試みる(シフトワーカーは特に注意する)
自然光を利用した体内時計の調整法:ブライトセラピー
これまで説明してきた気長な不眠対策ではなく、今すぐ実践できる方法を探している方は、この「ブライトセラピー(光療法)」に挑戦してはどうだろうか。自然光や高照度光を活用する「ブライトセラピー」は、体内時計を調整する科学的に裏付けられた効果的な方法である。
基本
- 起床後すぐに10分間、自然光を浴びる
- 午後の外出でさらに光を浴びることで、効果を高める
効果
- 朝の光を浴びることで、体内時計(サーカディアンリズム)をリセットできる
- メラトニンの分泌を適切に管理し、睡眠の質を向上させる
- シフトワーカーや不規則な生活リズムに悩む人に有効である
注意点
- 夜間のブルーライト(スマホやテレビの光)を避ける
- 特殊な照明(10,000ルクス)を使う場合は、朝に30~90分の照射を行う
まとめ:疲労回復と睡眠 #5【不眠編】
不眠は単なる体調不良ではなく、生活習慣や心理的要因が複雑に絡み合った状態である。しかし、自分の不眠タイプを理解し、適切な対策を講じることで、改善が期待できるだろう。まずは睡眠記録をつけ、問題点を明確化し、現実的な目標を設定して欲しい。
睡眠は疲労回復だけでなく、心と体の健康を支える基盤である。スポーツ競技者の重要戦略である。無理せず、自分に合ったアプローチで質の高い眠りを手に入れていこう。
【参考文献】
(Amazon)トレーニングとリカバリーの科学的基礎
(Amazon)不老長寿メソッド
(Amazon)最高の体調
(Amazon)かつてないほど頭が冴える! 睡眠と覚醒 最強の習慣
(Amazon)8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識