カフェインの正しい使い方【科学論文分析】

カフェインの正しい使い方【科学論文分析】
カフェイン(特にコーヒー)は、健康飲料としてその効果が多くの科学研究によって証明されてきた。
- 脳の記憶と思考プロセスに働きかけ、記憶力を良くする(2009年7月)
- 脳卒中のリスクを25%も減らす(2013年)
- 肝臓がんのリスクを40%も下げる(2013年10月)
- 抗酸化成分が糖尿病のリスクを下げる(2024年6月)
など、これらの効果はほんの一例に過ぎない。今回は、特にスポーツにおいてカフェインがもたらす効果に注目し、以下の3つのポイントについて掘り下げていく。
- 集中力の向上
- 身体持続力の強化
- 筋肉痛の軽減
集中力の向上
カフェインで集中力が上がると言われている理由は、大きくふたつある。
ドーパミン
ドーパミンは「やる気ホルモン」として知られる神経伝達物質の一つである。脳に「これをやると良いものが手に入る」や「危険が迫っている」といった信号を送り、モチベーションを高める役割を果たす。つまり、作業に集中して取り組むことができるのは、ドーパミンのおかげなのだ。
カフェインを摂取すると、ドーパミンの分泌が増加する。そのため、コーヒーなどのカフェインを含む飲料を飲むことで運動のパフォーマンスが向上すると考えられている。ボウリングにおいても、集中力が高まり、より良いパフォーマンスを発揮できるだろう。
ブレインエントロピー
ブレインエントロピーとは、脳の「無秩序な状態の度合い」を示す概念である。ブレインエントロピーが高いほど、脳の活動が複雑で不規則なパターンを示し、低いほど、脳の活動が規則正しい状態になる。ブレインエントロピーが極端に低くなると、熟睡や昏睡状態に近づき、ほとんど脳が対応できない状態になってしまう。つまり、規則正しいことの方が良さそうに思えるが、脳の活動においては不規則である方が神経は柔軟性に対応しやすく、メリットが大きい。
カフェインを摂取すると、大脳皮質のブレインエントロピーが高くなる。この結果、脳の活動が不規則性と複雑さが増し、これは情報の処理能力が上がったことを示唆している。特に前頭前皮質、デフォルトモードネットワーク、視覚野での能力上昇が顕著であるようだ。
しかしその一方で、カフェインは脳の血流を下げる作用がみられている。また、病気によりブレインエントロピーの値が変化している場合があるため、単純にとにかく高ければ良いとは言い切れないため、注意する必要もあることを知っておいて欲しい。
使い方
集中力を高めるためには、体重1kgあたり約3mgのカフェインを摂取するのが効果的である。例えば、コーヒー1杯には大体80mgのカフェインが含まれているため、体重60kgであればカフェイン180mg、コーヒー約2杯分の摂取ができる。
使い方で最も注意すべき点は、ほとんどの場合を除き、体重1kgあたり5〜6mgのカフェインが最大の効果を発揮する上限量であることだ。さらに、カフェインの1日の安全な摂取量は400mgまでとされている。最大効果を狙って5〜6mg/kgのカフェインを摂取すると、人によってはこの上限オーバーを招いてしまう可能性が高い。体重1kgあたり3mgのカフェインから始め、様子を見ながら調整するのが良いだろう。
身体持続力
2009年1月には、過去に行われたランニングとカフェインに関する21件のデータをまとめた系統的レビューがあり、有名なレビューであると同時に、かなり信頼性が高い内容になっている。
- カフェインを飲んだアスリートは、平均で3%ほどパフォーマンスがアップした
- カフェインの効果は最大で17%にも達した
3%では影響度が低い印象を受けるが、マラソンで言えばコーヒーを飲んだだけで、タイムが5~7分ぐらい短縮できるということである。この効果はマラソンやランニングなどの持久走でなくとも起きるため、もちろんボウリングでも良いだろう。
使い方
カフェインは早ければ15分、遅くても45分で脳に達するため、およそ本番の30分くらい前に飲んでおけば良いだろう。ただし、普段のカフェイン摂取量や肝臓のカフェイン代謝力によっても変わってくるため、自分のコンディションやピークに合わせていろいろ試しておくのが望ましい。
また、カフェインは耐性がつきやすい成分である。普段からカフェイン効果を使っていたり、カフェイン飲料を常飲していたりするならば、定期的なカフェイン断ちは必須である。本番前1週間はカフェインを控え、本番でのブースト効果を狙って欲しい。
筋肉痛の軽減
カフェインで筋肉痛がやわらぐのではないかと言うことを調べた実験がある(2017年3月)。筋肉疲労は複雑な現象であり、体内のナトリウムとカリウムのバランスが崩れるのが、大きな原因のひとつとされている。
カフェインの代謝物には、このバランスを高める働きがあると同時に(1999年11月)、カフェインが疲労物質であるアデノシンを阻害する働きを持っている(2009年)。このため、主観的な痛みである筋肉痛を軽減してくれる作用を発揮しているようだ。
この実験結果では、①カフェインを飲んだグループでは、トレーニングをした日から筋肉痛が10%ほど軽減、②筋肉痛がやわらぐ効果は、その後数日に渡って続いた、③しかし、筋肉の機能をすばやく元に戻す効果はなかった、と報告されている。
また、カフェインの効果は筋力よりも筋持久力、無酸素運動よりも有酸素運動のほうがカフェインのメリットは得やすいとされている(2020年6月)。
使い方
筋肉痛の軽減のためにカフェインを使うのならば、①トレーニング前はカフェインを飲まない、②トレーニング後は体重1kgあたり3mgのカフェインを服用し、さらに3~4時間おきに同量のカフェインを飲むと効果が上がる、③カフェイン耐性がある場合は、体重1kgあたり6mgまでカフェインを増量、と研究者はまとめている。
前述しているとおり、集中力や持続力という運動のパフォーマンスを高める効果があるので、目的によってカフェインの取り方を変える必要がある。
スポーツに寄与するだろう効果
安静時代謝/脂肪燃焼効果の向上
運動を続けるためにはエネルギーが必要である。筋肉の収縮に使われるエネルギーは、体内にわずかしか存在していない。例えば、全力で運動するとそのエネルギーは2秒程度しか継続できない。しかし、体内でエネルギーを再合成する能力が高ければ、運動を長く続けることができる。
カフェインは安静時の代謝を高め、脂肪燃焼効果を向上させることがわかっている。これにより、エネルギーの変換効率が上がり、運動効率がサポートされるだろう。
筋力アップの効果
カフェインの代謝物が筋肉内のカルシウムイオンを増やし、より力を発揮しやすくするという研究結果がある(2004年1月)。また、疲れを感じるまでの時間が長くなるという結果も確認されている(1998年6月)。
カフェインを摂取することで、運動の出力を上げることができるかもしれない。
食欲のコントロール
カフェインが食欲に与える影響を調べた研究では、主観的な空腹感については大差がなかったものの、カフェインを摂取しない場合に比べて摂取カロリーが減るパターンがあることが確認されている(2018年10月)。
運動によって食欲が増えることを心配しているならば、カフェインの力を借りてみるのも良いかもしれない。
カフェイン感受性と脳疲労
あなたのまわりでも、カフェイン飲料を苦手としている人がいるだろう。カフェイン感受性は人によって異なり、遺伝によって大きく左右される。
カフェイン感受性
- 高カフェイン感受性:1日100mg以下のカフェインでも不眠、焦り、心拍数の上昇が起きる
- 中カフェイン感受性:1日200〜400mgのカフェインなら副作用が起きない。大多数の人はここに含まれるため、多くのガイドラインでは1日のカフェイン量を300mgに設定していることが多い。
- 低カフェイン感受性:1日に500mg以上のカフェインでも問題なく、寝る前にコーヒーを飲んでも熟睡できる。全人口の10%ぐらいが該当する。
つまり、1日に1杯のコーヒーでも過剰摂取になる人もいれば、がぶ飲みしても平気な人がいるのである。ただし、カフェイン感受性が高くても、カフェインの悪影響は存在している。
脳疲労(カフェイン疲れ)
カフェインは疲労物質であるアデノシンの働きを妨げるが、カフェインを取り過ぎる(取り続ける)ことで、脳はアデノシンを感知するレセプター(受容体)を増やしはじめ、脳がアデノシンに敏感になって疲れやすくなってしまう。
カフェイン感受性が高い場合やカフェイン断ちを行う場合は、「カフェインレスコーヒー」を試してみると良いだろう。
まとめ:カフェインの正しい使い方【科学論文分析】
カフェインにはいろいろな効果が確認されている。あなたがスポーツに役立てたいと考えるならば、効果の目的を明確化し、目的に合った使い方を行って欲しい。
本記事のまとめ
集中力の向上
体重1kgあたり約3mgのカフェインを摂取する。例えば、コーヒー1杯には大体80mgのカフェインが含まれているため、体重60kgであればカフェイン180mg、コーヒー約2杯分の摂取となる。
身体持続力の強化
カフェインは早ければ15分、遅くても45分で脳に達するため、およそ本番の30分くらい前に飲んでおく。ただし、カフェインは耐性がつきやすい成分であるため、本番前1週間はカフェイン断ちを推奨する。
筋肉痛の軽減
トレーニング前はカフェインを飲まない、トレーニング後は体重1kgあたり3mgのカフェインを服用し、さらに3~4時間おきに同量のカフェインを飲むと効果が上がるとされている。
【参考文献】
(Amazon)カフェインの真実 賢く利用するために知っておくべきこと
(Amazon)コーヒーを飲む人はなぜ健康なのか?
(Amazon)トレーニングとリカバリーの科学的基礎